プロローグ
「はーっ」
空は広い。
年端も行かない子供からよぼよぼになったじいさんまで
いや、地球上の生き物全て知っていることかも知れない
それほどまでに広い。
全てを包み込むかのように、地上がどれだけ騒がしかろうと
ずっと俺達の頭の上に存在し続ける。
おそらくこの地球が誕生した瞬間から、全人類が滅びたその後もずっと変わらずに
だが今俺の見ている空はとても狭い。
銀色の額縁に飾られて、味気ない部屋の壁に無理やり埋め込まれてある。
絵画のようだ。
今は澄み切った青空。
額縁に手をかけ、そっと横へずらす。
開け放たれた空から心地よい風が部屋中を駆け巡った。
「・・・・・青いな。」
身を乗り出して上を見上げる。
思わず呟いてしまう、だが他になんとも言いようのない。青。
風がすっかり長くなった後ろ髪をなびかせる。
髪は長いほうが好きだ。
しかし、いい加減前髪が伸びてきてどうにも目障りになってきている。
床屋に行けばいいのだろう、俺がいつも行くのは〔カットサロン佐藤〕、家から自転車をこいで5分ほどの場所にある。
店長のサトウエリさんは気のいい60前後のおばあさんだ。
小さいころからの馴染みである俺を今でもよくしてくれる。
ただどんなに細かく注文をしてもいつも同じ髪型に仕上げてしまうのだけは勘弁してもらいたい。
「はぁー」
またため息をつくと上半身を部屋へと戻す。
そして未だに空から部屋へ飛び込んでくる風をガラスで遮断した。
ベッドに寝転がると額縁の中の空を眺める。
空は変わる。
今日見た空と明日見る空は全く違うものなのだ。
今見た空をもう一度見ることは無い。
何万年前の空を見ることは出来ない。
だがいつの空も曇ったり雨が降ったりていた。
そして、青かった。
それほどに空は変化し、それでいて永遠に変わらない。
「脩一ー、降りてきなさーい。」
一階から母の声が聞こえた、母は俺を呼ぶとき用件を言わない。ただ呼ぶ。
だが今日は用件がわかる、明日のことについてだろう。
「今行く。」
短く返事するとベッドから降りた。
扉を開けた瞬間、ふと振り返って空を見た。
銀の額縁に飾られたそいつはまだ青いままだった。
俺はそう簡単には変われない
空のように変われはしない、それでいて永遠ではない
長い目で見たならともかく、昨日の俺と今の俺。考えていることこそ違うが同じ「俺」のままだ。
部屋から出ると階段を降り、母のいるリビングへ向かう。
昨日の俺と今日の俺は変わらない
けれど明日の俺は何か変わってくれるのかも知れない
四月
丁度桜が咲く季節。
花びらが春風に舞う中、それは行われる。
入学式
明日は、俺が最も楽しみで
そして最も嫌いな日だ。