景色3

 

 

 

 

「バスケ部入りませんかー!」

「弓道部、初心者大歓迎!」

「調理部です。たのしい部活ですよ」

「青春なら野球だ!!!野球しかない!マネジャーも大募集だ!!!」

 

 

放課後の喧騒。

 

 

あちらこちらで部活の勧誘が行われている。

 

 

やかましいこと極まりない。

 

だいたいそんな必死に勧誘したところで入る奴は入るし入らない奴は入らない。

 

迷ってる奴はしっかり見学に行くだろうし、特にあての無い奴を無理矢理誘った所ではいる可能性は高くはないだろう。

 

 

それなのに一度昇降口へ出るや否や大量の上級生が押し寄せてきては勧誘を始める。

 

 

うるさいから波が引くまで教室で待機していたら教室の中まで入ってくる奴までいた。

 

おまけに何かの詐欺かと思わせるぐらいしつこい、しかも口が達者だ。

 

 

騒ぐのは勝手だが正直俺を巻き込むのはやめてほしい。どうせ俺は部活なんてやる気は無い。

 

 

「ね、写真部入らない?」

…もう一人いた、勧誘してくる奴が…

 

しぶしぶ目線を上げると篠川が満面の笑みでこちらを見ている。

「ね、入ってくれない?」

「…考えとく」

もっとも日本人の「考えとく」はほぼNOに等しいが

「日本人の『考えとく』はだいたい断り文句でしょ、ね、おねがいだから。」

ほう、なかなか解ってるじゃないかこいつ。

だがなんと言われようが入る気は無い。

「わかった。じゃあ入らなくていいからとりあえず『うん』っていって。」

…とうとう強制的に入部させる手段に出たか。

俺を入れる方法としては幾分かましになったが人間としてはどうかと思うぞ

「とにかく、俺は何処の部活にも入らない。じゃな。」

そう言って席を立つ。

もの寂しそうに篠川がこちらを見ているが無視だ。

 

廊下に出るとやはりまだいくつかの部活は勧誘をしていた。

このまま廊下を左に直進して西側渡り廊下にある昇降口へと向かうのが最短ルートだ。

だが、あえて右へと足を向ける。そのほうが声を掛ける部活も少ないからだ。

 

階段を昇り、また昇り、三階…三年のHRがある場所へと辿り着いた。

 

さすがにここまで勧誘はやっていない。

 

「よし…」

安堵しつつ、そのまま渡り廊下を伝って北校舎へ赴く

 

三階の渡り廊下には天井が無い。

俗に言う「青空廊下」というやつだ。

 

出てみると澄み切った青空が俺を出迎えた。

 

横を見てみても壁も、窓も無い

 

 

廊下とは違う、アスファルトの床を踏みしめ、北校舎にむかう。

 

 

と、

 

 

反対側から上級生が一人、歩いてくる。

 

スリッパの色から判断するに3年生だろう。

 

先ほども上級生とは散々すれ違った。

 

 

だがどうにも…嫌な予感がする

 

 

そうこうしている合間にも向こうとの距離はどんどん縮まってゆく

 

引き返すか?だがそれでこの予感が的外れだったらとんだ無駄足だ

 

 

とうとう相手の顔が識別できる距離まで来た。

もしかして、入学式の日、桜の下で俺に質問をしてきた奴…

と、

 

 

「君、ちょっと。」

 

 

話しかけられた。

 

 

 

入学3日目

 

 

このタイミングで初対面の上級生が話しかけてくる理由は限られる。

 

 

 

勧誘かカツアゲか、そのどっちかだろう。

 

「君、部活決まった?」

 

 

今回は勧誘だったようだ。どちらにしろ迷惑極まりない。

 

「…決まりました。」

 

出来るだけ屈託の無い声で答える。

 

「そうなんだ、何部?」

「サッカー部です。」

 

当然そんなきはさらさら無い。まずスポーツ自体好きじゃない。

だがこういえばほとんどの場合引き下がる。ほとんどの場合サッカー部に入ろうと思っている奴の意思は固い。と、少なくとも思われているはずだ。(ちなみにサッカー部が勧誘してきた場合は野球部だと答える)

 

「へぇ、そうなんだ…」

この男もよそう通り残念そうな声を上げた。

次は「頑張ってね」か「気が変わったらいってね」のどちらかを言うだろう

だが

 

 

「ね、見学だけでもいいから見ていかないか?」

 

 

そいつはそのどちらも言わなかった。

 

 

さきの話を聞いていなかったかのに自然な声でそういった。

 

「いや…だから…」

 

 

「見ていくだけだ。問題は無いだろう?どうせまだ部活はやらないんだし、暇つぶしだと思ってくれればそれでいい。」

 

こいつは厄介だな。

今まで幾つも詐欺まがいの勧誘は受けてきた。だから確信がある。コイツはその中でも5本の指にはいるくらいしつこい詐欺師だ。

 

「すいません、塾があるので。」

「大丈夫そんなに時間は取らないさ、チラ見程度でいいから。」

「ホントに急いでるんで、それじゃ。」

 

そういうとカバンの紐を握り締め、早足で歩き出す。

 

「あ、君。せめて名前は…」

 

聞こえない振りをして足を速める。

昼休みなどに押しかけれては堪らない。

下へと降りる階段はもう目の前だ

 

 

と、不意に肩に重みを感じた、足が止まる…

 

「言い忘れていたよ、俺の名前は遠島利之。34HR、よろしく。」

「…離して貰えますか。」

右肩を掴んでいる相手――遠島利之と名乗ったその男に声を掛ける。

 

「いつもはこの先にある特別教室で練習してるんだ、気が変わったらまたいつでも来てくれ。」

「…解りました」

ここまでしつこかったのは初めてだ。

ため息をつきたいのを我慢して、肩の上の手を掴んでどけた。

がっちりとした肉付きのいい手、何かの運動部にでも所属しているのだろうか。

あれ、、運動部が校舎内で活動するのか?じゃあ一体・・・・

 

 

目の前の階段を下りている途中、2階と3階の間の踊り場で足を止め、振り返る。

 

遠島はまだそこにいた、先ほどと変わらぬ体制で。

 

 

「・・・・一応聞いておきますが・・・何部なんです?」

 

これを聞いたのは興味ではない、ただふと頭に浮んだ疑問を口に出しただけだ

 

 

遠島は、少し間を空けて…以前桜の木の下で向けた笑顔のようにフッと微笑むと…

 


「演劇部だよ。」

 

 

 

 

演劇部―――・・・?